夕暮れの町に、少し冷たい風が吹いていた。
商店街を抜けた先の広場では、仮設のテントがいくつも立ち、机や椅子が並んでいる。
そこに、FELIXの器の中で育まれた問いが、いよいよ外へ出てきていた。
色とりどりのパネルや資料、手描きの地図が風に揺れ、
人々が足を止め、話し合い、笑い、時には首をかしげながら眺めている。
「信号の間隔を変えたら、通学路の安全と交通の流れはどう変わるか」
「空き店舗をコミュニティの拠点にしたら、誰が集まり、何が生まれるか」
「高齢者の会話を記録し、地域の歴史や知恵として残せないか」
それぞれの問いには、WEIで測った現状と、直感で拾ったエピソード、
遠くの町や人とのつながり、交換で得た新しい素材が添えられていた。
問いは、もう“種”ではなく、小さな枝葉を持つ苗木のような存在になっている。
第一の枝 ― FELIX☆games
広場の一角には、大きなボードゲームのようなセットがあった。
信号の位置、通学路、商店街の店舗、診療所、バス停――
町の地図を模したボードの上で、人々は駒を動かし、カードを引き、選択を重ねていく。
「信号を20秒延長しますか?」「店舗を子どもの遊び場に転用しますか?」
決定のたびに、画面にはWEIの数値や参加者のコメントが反映され、
予想外の結果や副作用が見えてくる。
FELIX☆gamesは、問いを遊びとシミュレーションに変える舞台だ。
失敗してもいい。むしろ失敗が新しい問いの芽を生む。
第二の枝 ― FELIX☆WINE
広場の反対側では、巨大なスクリーンに町の地図が映し出されていた。
色の濃淡で安全度や利用度が示され、時間ごとの変化がアニメーションで流れていく。
「ほら、夕方になるとこの通りの利用者が急に減るんです」
「この時間帯に合わせて店舗や施設を開ければ、人の流れが変わるかもしれません」
FELIX☆WINEは、WEIや他のデータをもとに、現状と未来を可視化する。
地図やグラフは、直感的な理解を促し、議論を深めるきっかけになる。
第三の枝 ― FELIX☆college
テントの奥では、小さな円卓が並び、世代も立場も異なる人々が座っていた。
そこはFELIX☆college。問いや試みの結果を共有し、学び合う場だ。
「信号の延長は好評でしたが、スクールバスの遅れが増えました」
「空き店舗の拠点化は若い世代に人気ですが、高齢者の利用はまだ少ない」
ここでは成果も課題も等しく価値がある。
学びを重ねることで、問いはより現実的で実行可能な形に近づいていく。
第四の枝 ― QchainとQchain☆novel
会場の隅に置かれた大型パネルには、問いの系譜図が描かれていた。
それがQchainだ。
最初に観察者が書いた「信号の間隔」という芽が、
「交通安全」「通学時間」「商店街の回遊性」へと分岐し、
さらにそこから別の問いが派生している。
一方、Qchain☆novelのブースでは、問いや経過を物語に仕立てた冊子が並んでいた。
読者は登場人物や物語を通じて、問いの背景や意味を追体験できる。
第五の枝 ― Nozomiシリーズ
出口付近のテントでは、ニュース記事の見出しがずらりと並ぶ。
ただし、どれも最後に「?」がついている。
これがNozomi☆newsだ。
日々の出来事をそのまま伝えるのではなく、「問い」として提示する。
そして隣にはNozomi☆college。
記事から生まれた問いを教材にして、短い対話やワークショップが行われている。
森のような全体像
夕暮れの光が広場を包む頃、あちこちで交わされた声や笑いが混ざり合っていた。
一本一本の枝は違う方向に伸びているが、その根は同じ器に通じている。
森は、一つの種から始まる。
第一章で観察者が拾った小さな問いが、今や多様な葉を茂らせている。
そして森は、また新しい種を生み、その種が器に運ばれていく――循環は続く。
次章では、この森がなぜ今の時代に必要なのか、
なぜこの輪を絶やしてはいけないのかを、現代社会の空気の中から掘り下げる。
それが**第5章「なぜ今、必要なのか」**である。