
探究と問い
1 はじめに
始まりは、とても小さな違和感でした。
町を歩き、人と話し、会議に参加する中で、確かに課題や可能性は目に入るのに、それをゆっくり考え、言葉にして、誰かと共有する「余白」がほとんどない――そう感じたのです。
現代はとても速く、情報は絶え間なく流れます。何かを提案すれば、すぐに評価や反論が返ってくる。便利さと効率が進む一方で、私たちは「すぐに答えられる問い」しか口にしなくなってはいないでしょうか。
けれど、本当に大切な問いは、時間をかけて温めなければ形にならず、他者と交わって初めて広がります。そして、そのための安全な場は、思った以上に少ないのです。
器という構想
私たちは、この「問いの余白」を守る場が必要だと考えました。一人の専門家や組織が所有する場ではなく、誰もが問いを持ち寄り、混ぜ合い、持ち帰れる開かれた器。
器とは、問いを安心して置ける場所です。そこでは、否定や急かしはなく、「未完成のままでいい」という空気が流れています。
その器を支えるのが、五つの原則です。
- 公正(Fairness) … 声の大小や立場に左右されず、問いが等しく扱われること。
- 共感(Empathy) … 数字や事実の裏にある感情や背景を理解しようとする姿勢。
- 自由(Liberty) … どんな形の問いでも置けること。
- 自治(Independence) … 自ら問いを選び、育てる主体であること。
- 革新的統治(Xenocracy) … 外からの新しい知や技術を安全に取り込む柔軟さ。
所作としてのWINE
しかし、守るだけでは問いは育ちません。成長させるには、状況や相手に合わせた動き――私たちはそれを所作と呼びます。
所作とは、決まった手順やマニュアルではありません。庭師がその日の陽射しや土の湿り具合を見て水を与えるように、
料理人が材料の状態を見極めて火加減を変えるように、相手や場に合わせて自然に変化する動きです。
FELIXでは、この所作を四つに整理しました。
- WEI(Well-being & Empowerment Index) … 暮らしやすさや自己決定感、関係の豊かさを可視化して現状を確かめる。
- Intuition(直感) … 説明できない感覚をそのまま残す。
- Network(つながり) … 遠くの声や異なる立場を招き入れる。
- Exchange(交換) … 差し出し、受け取り、混ぜ合わせる。
これらは毎回同じではなく、その場や関係性に応じて変わる柔らかな関わり方です。
森のような広がり
器と所作を備えたFELIXは、一つのプロジェクトにとどまりません。問いが器の中だけで終わらないよう、複数の場を立ち上げました。
FELIX☆gamesでは問いを試し、FELIX☆WINEでは可視化し、FELIX☆collegeでは学び合い、Qchainでは記録し、Nozomiシリーズでは社会に返す。
それぞれの場は森の枝葉のように異なる方向へ伸びますが、根は一つにつながっています。
私たち自身のためでもある
正直に言えば、この場は私たち自身のためでもあります。
自分の問いを安心して置きたい。他者の問いに触れて、自分の視野を揺さぶられたい。そうした経験を続けられる場が、私たちには必要でした。
そして、ここに来た人が「自分の問いはここで生きていい」と感じられること。その瞬間こそが、私たちがこの場を作り、続ける最大の理由です。
FELIXは完成されたシステムではありません。関わる人や問いによって、形も色も変わります。だからこそ、この場の物語は私たちのものではなく、ここに関わったすべての人が紡ぐ共同の物語です。
もし、あなたの中にも小さな問いがあるなら、どうかここに置いてみてください。それは、あなたにとっても、誰かにとっても、新しい物語の始まりになるかもしれません。
2 FELIXという器 ― 問いのための居場所
昼過ぎ、商店街を抜けた先にある古い公民館の二階。窓から差し込む光が、長机の上に柔らかな影を落としていた。集まったのは、地元で活動する十数人の人たち。誰もが昨日や今朝、自分の暮らしの中で見つけた“小さな問い”を持ち寄ってきている。
机の上には、色とりどりの付箋やカード、マーカーが並んでいた。
「信号の間隔」「空き店舗」「会話の繰り返し」
昨日、観察者がノートに書いたあの芽も、その中にある。
だが、ただ机の上に置いただけでは、この芽は簡単に風にさらわれてしまう。否定や無関心、あるいは日常の忙しさが、その存在を消してしまうのだ。
器という発想
「だから、場所が必要なんです」
集まりの中で、一人がそう口にした。
「この問いを守る“器”のような場所が」
その言葉に、場の空気が少し変わった。
器――それは単なる物理的な箱や会議室ではない。ここでいう器とは、問いを安全に置き、必要なだけそこに留めておける環境そのものだ。
器の役割は二つ。
ひとつは保護。外からの急な批判や即断を避け、問いがまだ未完成であることを許す。
もうひとつは発酵。外の視点や異なる背景の人との出会いを通して、問いを少しずつ育てる。
守りすぎれば閉じこもりになり、開きすぎれば問いの形が崩れる。その絶妙なバランスを保つことこそが、器の存在意義だ。
五つの柱
やがて、この器を支えるための五つの柱が話し合いの中から立ち上がった。
- Fairness(公正)
大きな声も小さな声も、等しく置かれる。
立場や肩書きが、問いの重さを左右しない。 - Empathy(共感)
数値や事実の裏にある感情や背景を大切にする。
同意ではなく、理解する姿勢が重視される。 - Liberty(自由)
どんな形の問いでも置くことができる。
制約は、互いの尊厳を守るために必要な最小限にとどめる。 - Independence(自治)
自ら問いを選び、育てる主体であること。
他者に委ねすぎず、責任を持って関わる。 - Xenocracy(革新的統治)
外からの新しい知や技術、とくにAIを安全に取り込む柔軟さを持つ。
この五つは、壁に貼られたわけではない。場に集う人たちの態度ややり取りの中に、少しずつ染み込んでいった。
形のない器
FELIXの器は、固定された場所を持たない。オンラインでも、野外でも、公民館でも、器の“条件”さえ満たされればそこに立ち上がる。境界線が見えないからこそ、参加者の意識と作法が器を形づくる。
この日も、誰かが問いを語り始めると、他の人はメモを取りながら耳を傾けた。意見を挟む前に、その問いが生まれた背景や状況を確かめる。そのやりとり自体が、器の壁や床を組み上げていくようだった。
器の初仕事
「この信号の間隔、誰が決めてるんでしょうね」
商店街の店主が呟くと、元自治会長が「市役所の交通課だろうね」と答える。そこから話は、通学路の安全、バスの運行、近隣の工場のシフト時間へと広がった。
問いは、器の中で別の問いと触れ、少し形を変える。それでも、元の芽は失われない。むしろ根を張り、枝を伸ばすように、つながりを増やしていく。
次の準備
集まりの最後、器の図がホワイトボードに描かれた。中央に「問い」があり、その周りを五つの柱が支える。「これで、この場はどこでも再現できる」と誰かが言った。器の存在は、これから生まれる無数の問いに居場所を与えるだろう。
次章では、この器の中で問いがどのように形づくられ、他者とつながっていくのか――
WINEという道具が登場する。
それは問いを守るだけでなく、育て、橋をかけるための四つの所作だ。
3 WINEという道具 ― 問いを育てる四つの所作
午後の光が差し込む公民館の一室。器の中で守られた数々の問いが、机の上に静かに並んでいる。色とりどりのカードや付箋には、昨日から集まった問いが手書きされていた。
「信号の間隔をどうにかできないか」
「空き店舗の活用方法」
「高齢者が繰り返し同じ話をする背景」
器はこの問いたちを守ってきた。だが、ただ守るだけでは芽は伸びない。水や光、風が必要なように、問いにも育つための手入れがいる。
「今日は、この問いたちに“手”をかけていきましょう」
進行役がそう告げた瞬間、場の空気が少し動いた。手入れの方法は、WINEと呼ばれる四つの所作だという。
第一の所作 ― WEI(Well-being & Empowerment Index)
最初に机の中央に広げられたのは、町の地図と簡単なグラフだった。参加者の中の一人が、通学路の横断に関する住民アンケートの結果を持ってきたのだ。
「ここ、朝の混雑で子どもが渡るのに時間がかかっていると答えた家庭が6割以上あります」
彼は、信号の位置と混雑時間を地図に赤くマークしていった。
このWEIは、町の幸福度や暮らしやすさを可視化するための指標だ。
「数字がすべてじゃないけど、感覚だけだと他の人に伝わらない」
進行役の言葉に、周りが頷く。WEIは問いの現在地を示す灯りのようなものだ。それは問いの背景を他者と共有するための最初の手がかりになる。
第二の所作 ― Intuition(直感)
WEIで見える化された情報の隣に、白紙のカードが置かれた。
「数字や事実じゃ説明できない“ひっかかり”を書いてください」
カードに書き込まれるのは、不思議なほど多様だった。
「夕方の空気がざわついている感じがする」
「店のシャッターが下りたままだと、通りが暗く感じる」
「待合室の時計の音がやけに大きく聞こえる日がある」
直感は、まだ言葉にならない感覚の断片だ。それは時に数字よりも鋭く、問いの核心を指すことがある。
「これを無理に説明しようとしないで置いておくのがコツです」
進行役は微笑みながら、直感カードをWEIの地図のそばに並べた。
第三の所作 ― Network(つながり)
その日の集まりには、町外からの参加者もいた。漁師町の青年、隣の市で福祉施設を運営する女性、オンラインで参加している高校生たち。
「うちの港でも、朝の荷下ろしの時間帯に歩行者の動きが滞るんですよ」
「施設の送迎バスと小学校の下校時間が重なると、道が混みます」
離れた場所の経験や事例が、ここでの問いに新しい視点を与えていく。ネットワークは単なる情報交換ではない。背景の違う人と関わることで、問いは立体感を増し、「これはうちだけの問題じゃない」という確信が生まれる。
第四の所作 ― Exchange(交換)
最後の所作は、差し出し合いと受け取り合いだ。参加者は小さなカードに「差し出せるもの」と「受け取りたいもの」を書く。
「通学路の写真データを提供できます」
「混雑時の交通量カウントを欲しいです」
「商店街の空き店舗リストを差し出します」
「待合室利用者の体験談を集めたいです」
カードは机の中央で混ざり合い、新しい組み合わせが生まれる。通学路の写真と施設の送迎データが組み合わされ、空き店舗リストと地域活動団体の提案が結びつく。交換は取引ではない。互いの世界の入口を一時的に借り合い、その景色を共有することだ。
四つの所作が輪になる
WEIで位置を知り、Intuitionで感覚を残し、Networkで広げ、Exchangeで混ぜ合わせる。それぞれが独立しているようでいて、実際には循環している。数字は感覚を裏付け、感覚は新しいつながりを呼び、つながりは交換を促し、交換は数字を洗い直す。
「これなら、急がなくていい」
誰かがそうつぶやいた。問いが少しずつ厚みを増し、器の中で形を整えていく。
次章への橋渡し
日が傾き始める頃、机の上の問いたちは少しだけ姿を変えていた。信号の間隔の話は、地域全体の交通の流れと結びつき、空き店舗の話は、地域交流の拠点づくりの可能性と絡まり、高齢者の会話の話は、世代間の学びの場づくりの種になっていた。
次の章では、こうして形を得た問いが、器の外へと枝葉を伸ばし、森のように広がっていく姿が描かれる。それは広がる輪の物語だ。
4 広がる輪 ― 森のように育つ問い
夕暮れの町に、少し冷たい風が吹いていた。
商店街を抜けた先の広場では、仮設のテントがいくつも立ち、机や椅子が並んでいる。
そこに、FELIXの器の中で育まれた問いが、いよいよ外へ出てきていた。
色とりどりのパネルや資料、手描きの地図が風に揺れ、
人々が足を止め、話し合い、笑い、時には首をかしげながら眺めている。
「信号の間隔を変えたら、通学路の安全と交通の流れはどう変わるか」
「空き店舗をコミュニティの拠点にしたら、誰が集まり、何が生まれるか」
「高齢者の会話を記録し、地域の歴史や知恵として残せないか」
それぞれの問いには、WEIで測った現状と、直感で拾ったエピソード、
遠くの町や人とのつながり、交換で得た新しい素材が添えられていた。
問いは、もう“種”ではなく、小さな枝葉を持つ苗木のような存在になっている。
第一の枝 ― FELIX☆games
広場の一角には、大きなボードゲームのようなセットがあった。
信号の位置、通学路、商店街の店舗、診療所、バス停――
町の地図を模したボードの上で、人々は駒を動かし、カードを引き、選択を重ねていく。
「信号を20秒延長しますか?」「店舗を子どもの遊び場に転用しますか?」
決定のたびに、画面にはWEIの数値や参加者のコメントが反映され、
予想外の結果や副作用が見えてくる。
FELIX☆gamesは、問いを遊びとシミュレーションに変える舞台だ。
失敗してもいい。むしろ失敗が新しい問いの芽を生む。
第二の枝 ― FELIX☆WINE
広場の反対側では、巨大なスクリーンに町の地図が映し出されていた。
色の濃淡で安全度や利用度が示され、時間ごとの変化がアニメーションで流れていく。
「ほら、夕方になるとこの通りの利用者が急に減るんです」
「この時間帯に合わせて店舗や施設を開ければ、人の流れが変わるかもしれません」
FELIX☆WINEは、WEIや他のデータをもとに、現状と未来を可視化する。
地図やグラフは、直感的な理解を促し、議論を深めるきっかけになる。
第三の枝 ― FELIX☆college
テントの奥では、小さな円卓が並び、世代も立場も異なる人々が座っていた。
そこはFELIX☆college。問いや試みの結果を共有し、学び合う場だ。
「信号の延長は好評でしたが、スクールバスの遅れが増えました」
「空き店舗の拠点化は若い世代に人気ですが、高齢者の利用はまだ少ない」
ここでは成果も課題も等しく価値がある。
学びを重ねることで、問いはより現実的で実行可能な形に近づいていく。
第四の枝 ― QchainとQchain☆novel
会場の隅に置かれた大型パネルには、問いの系譜図が描かれていた。
それがQchainだ。
最初に観察者が書いた「信号の間隔」という芽が、
「交通安全」「通学時間」「商店街の回遊性」へと分岐し、
さらにそこから別の問いが派生している。
一方、Qchain☆novelのブースでは、問いや経過を物語に仕立てた冊子が並んでいた。
読者は登場人物や物語を通じて、問いの背景や意味を追体験できる。
第五の枝 ― Nozomiシリーズ
出口付近のテントでは、ニュース記事の見出しがずらりと並ぶ。
ただし、どれも最後に「?」がついている。
これがNozomi☆newsだ。
日々の出来事をそのまま伝えるのではなく、「問い」として提示する。
そして隣にはNozomi☆college。
記事から生まれた問いを教材にして、短い対話やワークショップが行われている。
森のような全体像
夕暮れの光が広場を包む頃、あちこちで交わされた声や笑いが混ざり合っていた。
一本一本の枝は違う方向に伸びているが、その根は同じ器に通じている。
森は、一つの種から始まる。
第一章で観察者が拾った小さな問いが、今や多様な葉を茂らせている。
そして森は、また新しい種を生み、その種が器に運ばれていく――循環は続く。
次章では、この森がなぜ今の時代に必要なのか、
なぜこの輪を絶やしてはいけないのかを、現代社会の空気の中から掘り下げる。
それが第5章「なぜ今、必要なのか」である。
5 なぜ今、必要なのか ― 失われつつある熟考の時間
夕暮れの駅前。
帰宅ラッシュの人波が交差し、踏切の警報音とアナウンスが混じり合う。
足早に通り過ぎる人たちの表情には、余白がない。
かつては改札脇で交わされていた世間話や、ベンチでの短い休憩も、今はほとんど見かけなくなった。
その一角に、小さな立ち話の輪があった。
二人の高齢女性が、商店街の空き店舗について話している。
「昔はあそこで文房具を買ったのよ」
「今は誰も入らなくなったわね」
会話はそれ以上深まらず、信号が青に変わると二人は別の方向へ歩き出した。
速さが日常を覆う
近年、何もかもが速くなった。
行政の発表も、商店街の変化も、ネット上の評判も、一瞬で人々の間を駆け抜ける。
便利さと効率の裏で、「立ち止まって考える時間」が減っていった。
商店街の空き店舗が増えても、原因を話し合うより先に、
別の店の閉店や新しい開発計画が話題をさらう。
信号の間隔やバスの本数が変わっても、なぜそうなったのかを確認する機会はほとんどない。
人々は情報を受け取るが、それを自分ごととして咀嚼する余白を持てなくなっている。
複雑に絡み合う地域課題
ある日のFELIXの集まり。
机の上に三つのカードが置かれた。
「商店街の活性化」
「高齢者の外出支援」
「子育て世代の交流」
「バスの便数を減らすと、高齢者は買い物に行けなくなり、商店街の売り上げが落ちます」
「子育て支援イベントを開いても、駐車場が不足して参加できない家庭が出ます」
一つの施策が別の領域に影響し、予期せぬ結果を生む。
交通、商業、福祉、教育――それぞれが見えない糸でつながっている。
そのため、単独の分野や立場だけでは答えを出せない。
異なる背景の人々が、同じ場に集まる必要がある。
情報の偏りと分断
夜、カフェの窓際。
若い男女がノートPCを前に議論している。
「この事業、成功したってニュースに出てた」
「いや、別の記事では失敗って書いてある」
意見は平行線をたどり、それぞれの画面に視線を戻す。
現代の情報環境は、同じ出来事をまったく異なる姿に見せる。
人は自分が信じたい情報源だけにアクセスし、異なる意見との接点を減らしてしまう。
その結果、相手を理解するきっかけが失われ、誤解や不信感が積み重なっていく。
FELIXの役割
このような背景の中で、FELIXは静かに扉を開けている。
器は問いを守り、WINEは問いに形を与え、広がる輪は問いを現実に送り出す。
ここでは、答えを急がない。
短期的な成果よりも、持続的な変化を重んじる。
異なる立場や分野の人が背景を持ち寄り、互いの物語を知る時間をつくる。
FELIXは、情報の偏りや分断を超えて、共通の土台で話すための場を提供する。
複雑に絡み合った課題を整理し、新しい組み合わせを試すための安全な空間でもある。
「なぜ今」への答え
なぜ今、FELIXが必要なのか。
それは、この時代が熟考のための時間と空間を急速に失っているからだ。
日常の中の小さな違和感や不便が、声になる前に消えてしまう。
その前に、問いを置ける器と、形にする道具が必要だ。
FELIXは、そのための仕組みを既に持っている。
静かな橋
夜更けの商店街。
灯りのついた一室では、数人が円卓を囲み、資料や写真を広げながら穏やかに話をしている。
急ぐでもなく、互いの言葉を確かめ合いながら。
FELIXは、この静かな橋を架け続ける。
橋の向こうには、まだ出会っていない問いや人が待っている。
その出会いが、地域や社会の形を少しずつ変えていくかもしれない。
あなたへの招待 ― 物語はここから続く
夜の広場は、昼間の賑わいとは違う表情を見せていた。
仮設テントや机は片づけられ、地面には折りたたまれた椅子やコードリールの跡が残っている。
しかし、その場にはまだ熱が残っていた。
夕暮れまで交わされた数々の会話や笑い声が、空気に染み込んでいるように感じられる。
片づけを終えた人々が、ゆっくりと帰路につく。
その手には、器の中で育ち、WINEで形を得て、外の世界で枝葉を広げた問いの断片が残されている。
パネルの写真、書き込みの入った地図、交換したカード。
どれも、今日という一日を通して他者と共有された物語の一部だ。
あなたの中の問い
これを読んでいるあなたにも、日常の中でふと心に引っかかった瞬間があるだろう。
朝の信号待ちで感じた微かな不便。
閉まったままの店先を見たときの物足りなさ。
世代の違う誰かと会話を交わした後に残る、言葉にならない感覚。
それらは、まだ名前も形も持たない“小さな問い”だ。
放っておけば、忙しさや情報の波に飲み込まれて消えてしまうかもしれない。
しかし、FELIXの器の中では、その芽は守られ、ゆっくりと根を張ることができる。
置く、守る、育てる
器は、問いを置き、守るための場だ。
ここでは否定も急かしもなく、「未完成のままでいい」という空気がある。
WINEの四つの手つき――WEI、Intuition、Network、Exchange――が、問いに形と広がりを与える。
問いは他の問いと出会い、想像もしていなかった関係を結び、
やがて器の縁を越えて、森のように広がる輪の一部になる。
その輪の中では、信号の間隔の話が交通や安全の議論に発展し、
空き店舗の話が地域の交流拠点づくりに変わり、
高齢者の会話は世代間の学びの場を生み出すきっかけになる。
関わり方は自由
FELIXには、決まった参加の形はない。
FELIX☆gamesで問いを試してみてもいい。
FELIX☆WINEでデータや未来予測を描いてもいい。
FELIX☆collegeで円卓を囲み、異なる立場の人と学び合ってもいい。
Qchainで問いを記録し、物語として残すこともできる。
Nozomi☆newsで出来事を問いに変え、社会に返すこともできる。
関わり方は自由で、時とともに変わって構わない。
季節が巡るように、あなたの関わり方も変わっていく。
共鳴の瞬間
FELIXに参加すると、不思議な瞬間が訪れる。
自分の問いが、遠く離れた誰かの問いと重なり、響き合う瞬間だ。
その共鳴は大きな音ではなく、静かな音色だ。
しかし、その響きほど長く心に残るものはない。
やがてその響きは、他の地域や分野にも広がり、見えないネットワークを形づくる。
それは新しい企画や制度の芽となり、誰かの生活を少しずつ変えていく。
招待状
この物語は、第一章で観察者が拾った小さな問いから始まった。
器で守られ、WINEで形を得て、輪となり、広がった。
今、その輪の外縁に、あなたの席が用意されている。
必要なのは、たった一つ――あなたの中の問いだ。
完璧でなくていい。説明できなくてもいい。
それをこの場に置きに来てほしい。
扉は静かに開かれている。
その向こうで、あなたの問いを待っている人がいる。
その問いが誰かの未来を変えるかもしれないし、あなた自身を変えるかもしれない。
FELIXは、その瞬間を迎える準備ができている。
この物語の続きを、今度はあなたと一緒に紡ぎたい。